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文化+/映像技術者の卵を育成 作家の小野さん、経験や資源を次の世代へ=台北メディアスクール校長<文化+>

2021/06/23 06:43
台北メディアスクール
台北メディアスクール

台北市公館エリアに位置する芸術集落「宝蔵巌」には、一風変わった学校がある。それは「台北メディアスクール」(台北市影視音実験教育機構)。映像や音楽関連の授業を特色とした高校レベルの実験教育機関だ。校長を務めるのは、作家で脚本家の小野(シャオイエ)さん。台湾の映画業界やテレビ業界、文芸界において、誰もが軽視できない功績を持つ。「私にできるのは、そして最も貢献できるのは、私の過去の経験だ」と語る小野さん。これまで誰も気にしていなかった台湾の映像技術教育の基礎を築こうと、熱血教師を引き連れて、長年の経験や資源を次世代の若者に伝えようとしている。

 本記事は中央社の隔週連載「文化+」の「隱身在寶藏巖的夢想孵化器 作家小野校長兼撞鐘」を編集翻訳しました。

▽実験教育と映像技術の出会い

 台北メディアスクールは2016年9月、台北市文化基金会によって設立された。同校の公式サイトに掲載されている入学要項によれば、入学を希望する生徒の中学校での学業の成績は問わない。年齢も不問。中学卒業と同程度の学力があればいい。重視するのはその人の興味やポテンシャルだ。映像技術に興味がありさえずれば、誰にでも入学のチャンスがある。

台北メディアスクール校長を務める小野さん(王飛華撮影)
台北メディアスクール校長を務める小野さん(王飛華撮影)

 設立までには紆余曲折があった。発足当時、台北市政府文化局長だった倪重華氏こそが、映像技術教育の重要性を考えていた当の本人だ。小野さんはこう振り返る。「倪重華が柯文哲台北市長を説得したのです。このような実験教育を行う必要があるのだ、求めているのは監督でも脚本家でも役者でもなく、技術人材なのだと」。台湾の現在の教育システムにおいて、映像、音楽分野の教育というのはパフォーマンスや創意に関するものが大半で、「映像編集や撮影、録音などといった技術を専門的に訓練してくれる人はいません」と小野さんは指摘する。

 この学校には、コアとするものが3つある。「一つは職業教育、もう一つは映像関連の技術、3つ目は実験教育」。だが、この3つは実はやや矛盾するのだと小野さんは説明する。映像技術者の養成はこれまではみな師弟制をとっていた。厳格で、弟子に自由はなく、地道な訓練だった。技術系の学校もそうだ。就職のため、生徒にしっかりと技術を身に付けさせる必要があった。

 だが実験教育が標榜するのは選択や自由であり、生徒自身に自分の興味を掘り下げ、自分が愛して憧れる道を見つけさせる。「この学校は実は少しロマンチックなんです。完璧に詰めないままに始めたので、少し矛盾があるのです」。最初は困難がたくさんあり、カリキュラムの組み方や保護者との意思疎通、生徒の進学や就職などはどれも頭を悩ます問題だったと小野さんは言う。

 「この学校をここに置いたのは正解でした」。小野さんは笑ってみせる。宝蔵巌には芸術村があり、住民もいて、環境は特殊だ。実験教育にとっては実はとても良い場所なのだ。「素晴らしいと思う人もいれば、広すぎて学校らしくないために、いいとは思わない人もいます」。小野さん自身は校長に選ばれた際、この場所をとても気に入ったのだった。

 「最初はやりたくなかったのです。しかしその後少し考えてみて、2、30年前にホウ・シャオシェン(侯孝賢)が『映画を撮っていて一番やりたいことは映画学校を作ること』と話していたのを思い出したのです」。ホウ監督は2009年、台湾の映画賞「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)の枠組みの中で、新鋭映画人を養成する「金馬映画学院」を立ち上げた。小野さんは「じゃあ自分がメディアスクールを引き受けるのも、一つの継承なのではないか」と考えた。そこから、教育者としての道が始まった。

撮影に挑む台北メディアスクールの生徒たち(鄭清元撮影)
撮影に挑む台北メディアスクールの生徒たち(鄭清元撮影)

▽下に根を張り、全く新しい時代に向かっていく

 この学校で小野さんは校長ではあるが実際はボランティアのようなのだと明かす。「会議に参加し、カリキュラムを話し合うけれど、決めるのは私ではありません」。学校には3人の職員と5人の専任教員がいて、この8人が共同で決定を下し、カリキュラムの方向性を決める。「私の一番の役目はおそらく、斡旋したり、業界内の人脈を提供することでしょう」。生徒を映画の制作現場に見学に連れて行ったり、演劇を見せたりもする。「インターンの機会が必要な場合も、仕事先を紹介してあげます。私の仕事はこんなところです」

 台北メディアスクールは今年で創立6年目を迎える。小野さんにはこの数年で気付いことがある。このような実験教育によって、多くの生徒は進路が広がっているのだと。「私たちの戦略は、必要な授業を生徒自身が選べるようにするということです。必修もあれば、選択科目もあります。授業選択の方式は大学よりもさらに自由なのです」。もしその学年に音楽が好きな生徒が多ければ音楽の授業の割合を増やし、アニメーション制作が好きな生徒が多ければ、アニメの授業を増やす。選択の方式は多元的で、自主学習計画を提出することも可能だ。自宅で、あるいは実際の職場でのインターンによって単位を取ることもできるのだと小野さんは説明する。

 「メディアスクールがどんな結果を与えられるのか形容するのは難しい」。小野さんは率直に語る。卒業生にはそのまま就職して映像産業での仕事を始めた人もいれば、進学を選んでさまざまなルートで大学に入った人もいる。留学を選んだ生徒もいる。「でも、彼らの能力は、仕事にできるレベルにほぼ達しています。彼らの3年間の訓練からすると、業界に入るのは難しいことではありません」

 小野さんはさらに例を挙げる。ある人は卒業後すぐに劇場公開作品のスタッフとして仕事を始め、ある人はマネジメント会社に就職した。卒業前にすでに人気作品の作曲を担当した人までいる。「もし大卒の学歴が必要ではなく、直接業界に入ったなら、5年、あるいは10年ほど経験を積みさえすればきっと、多くの大卒者よりも高い競争力を獲得できるでしょう」

撮影に挑む台北メディアスクールの生徒(鄭清元撮影)
撮影に挑む台北メディアスクールの生徒(鄭清元撮影)

しかし、最もかけがえのないものはなんと言っても「自由」だと小野さんは語る。実験教育は、学校教育制度の枠内では与えられない自由と自主性を与えることができるのだと。「入学してすぐに『なんで一般の学校よりも疲れるんだ』と思う生徒もいます。それは私たちが決定権を生徒に委ねているからです。一般の学校は違います。誰かが決めてくれるのです」。物事には二面性があるのだと小野さんは笑う。「青春時代の3年において自由な生活を経験して、真に何かを学べるというのは容易なことではありません。個人の人格形成においても大きな影響があるのです」

 多くの面において、台北メディアスクールはすでに、当初学校を設立する際に思い描いていた意義を超越していると小野さんは考える。生徒や保護者、教員にとっては、さまざまなチャレンジが多くあった。「すでにメディア教育は根を張り出しているのです」。自分にまだできるのは、長年にわたって積み重ねた失敗と成功の経験を新時代の人々に伝え、若者が前に向かって進み、この時代ならではのまばゆい花火を弾けさせるのを見つめることなのだーと小野さんは未来に期待を寄せた。

(陳秉弘/編集:名切千絵)

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