<文化+>台湾の物語を音符に 実験音楽バンド「落差草原WWWW」

2021/02/24 06:55 文字サイズ: 字級縮小 字級放大

本記事は中央社の隔週連載「文化+」の「轉譯再生的台灣音符 落差草原WWWW」を翻訳編集したものです。

 アーティストを発掘する米プラットフォーム「Audiotree」で昨年、台湾のバンドのパフォーマンス映像が取り上げられた。実験的な音楽で知られるインディーズバンド「落差草原WWWW」(Prairie WWWW)が中部・彰化県の伝統的住宅、三合院(中庭を中心に「コ」の形に建築物が並ぶ住居)で撮影した映像だ。演奏風景を360度撮影で捉えた。彼らは島嶼の文化的遺跡や消えたもの、失われつつある言語について語り、実験的なメロディーと台湾らしい映像でリスナーを魅了している。



 落差草原は2010年結成のバンド。現在のメンバーは5人。バンド名の「WWWW」は発音しない。音の波形を象徴し、草が風によって揺れる姿をイメージしている。大自然や台湾の土地の物語からインスピレーションを得て、詩や民謡、ファンタジー、集落感などの要素を組み合わせた音楽を生み出している。台湾では珍しいエクスペリメンタル・フォークバンドだ。

落差草原のメンバー。右から唯祥(ウェイシャン/ボーカル、ギター、シンセサイザー)、一之(イージー/編曲、ドラム)、愛波(アイボー/ボーカル、ベース)、小白(シャオバイ/ドラム)、洪御(ホンユー/シンセサイザー、ギター)

落差草原のメンバー。右から唯祥(ウェイシャン/ボーカル、ギター、シンセサイザー)、一之(イージー/編曲、ドラム)、愛波(アイボー/ボーカル、ベース)、小白(シャオバイ/ドラム)、洪御(ホンユー/シンセサイザー、ギター)

 独特な音楽で国際的に注目を浴び、2016年には日本で立ち上げられた「Guruguru Brain」から初のレコード盤「霧海」EPをリリースした。これまでに英国やスペイン、日本、米国などの大型音楽フェスティバルに参加したほか、2019年には現代エクスペリメンタル・ロック・バンドの最高峰と呼ばれる米バンド「バトルス」(Battles)とのコラボレーションを果たした。

▽次に何が聞こえるのか分からない

 初めて落差草原の作品を聞いた人は、宇宙語を聞いているような、あるいは人っ子一人いない未開発の森林に迷い込んだような感覚を覚えるだろう。

 音楽評論家の馬世芳は落差草原の音楽をこう形容する。「彼らの作品を聞いている時、次に何が聞こえるのか全く想像がつかない。彼らはメロディーよりも音の響きを大事にしており、リズムは歌や音楽が展開していく上での核心である。ボーカルはいつも深いところに埋められていて、霊術の秘教のような雰囲気を帯びている。彼らの歌は、山奥の木の妖精や山の妖精で出来上がっているみたいだ」

▽木の妖精でも山の妖精でもない ただの音楽好きの台湾の若者

 取材当日、落差草原のメンバーはカジュアルな服装でMRT古亭駅近くのスタジオに集まった。恥ずかしそうに、穏やかに目を輝かせ、やや緊張した面持ちで真摯に質問に答える様子に、デビュー10年以上という熟練感は感じられない。

「しょっちゅう山登りをしていると思われがちなのですが、実はものすごく『都会派』なんです」とドラムの小白(シャオバイ)は軽快に笑う。メンバーは実は「インドア」。一緒に山林に入ったのはほんの数回しかない。地下のスタジオで会議を開くことのほうがかえって多い。

スタジオで会議を開くメンバー。生活を維持するため、全員「本職」を持っており、週1~2回集まって練習する

スタジオで会議を開くメンバー。生活を維持するため、全員「本職」を持っており、週1~2回集まって練習する



 このバンドは、唯祥の家の屋上の部屋から始まった。唯祥と一之は高校の同級生で、放課後にはしょっちゅうこの屋上の小さな空間で音楽を聞いていた。ジャンルは米国のパンクや日本のパンク、ファンク、ポストロックと様々だ。それからドラムを購入し、バンドのカバーに挑戦した。ドラムを叩くこと2年。曲は1曲も仕上がらなかったが、警察には何度かドアを叩かれた。

 若かりし頃に火がついた創作の種は2人の心の中にしっかりと植えられ、創作や曲作りによって自分探しをし、自分の理想を表現したいとの思いが芽生えるようになった。大学生になると2人の耳はますます肥え、型にはまっている大衆流行音楽よりも、サウンドアートやノイズミュージック、即興などの実験的な作品に創造力を刺激された。音楽によって優しく抗争意識を表現するチェン・ミンジャン(陳明章)やバナイ(巴奈)、リン・シェンシャン(林生祥)などは当時の落差草原の楽曲の方向性に大きな影響を与えた。

 当時は反逆少年だったかもしれないと一之は笑う。わざとメジャーとは反対の方向に向かおうとしていたという。「台湾にはこんなジャンルの音楽はない。だったら自分たちで作ってみようじゃないか」。幸運にも同じ曲風を好む仲間と出会ってバンドを結成した。その中の数人は大学卒業後もバンドを続けることを確認し合い、次第に新メンバーも加わるようになった。結成から10年以上が経ち、ファンタジックで抽象的なメロディーの中に土地や文化に対する関心を多く込めるという落差草原ならではの音楽言語と調性が作られていった。

▽文化を根に、実験を枝に 台湾らしさとは

 2010年、落差草原は1枚目のオリジナルEP「通向烏有」をリリースする。この作品は、メンバーが台湾原住民(先住民)の映画監督マーヤウ・ビーホウ(馬躍比吼)の「カナカナブは待っている」を見た後に生まれた。台湾中部や南部が台風で大きな被害を受けた2009年の「八八水害」を題材に、土石流で集落を流されたカナカナブ族の人々が集落の再建に向けて努力し、学術上で他のエスニックグループの一つに分類されている自分たちを「カナカナブはカナカナブである」と世界に伝えようとする姿を追った作品だ。

 これを機に、落差草原のメンバーは台湾のエスニックグループや自然環境、伝統文化などのテーマについて考えるようになり、「社会共生」の定義を見直すようになった。メンバーは自分たちが育った土地についてより深く知りたくなった。洪御は「落差草原は台湾のバンド。だったら自分たちの物語を語らなきゃ。それでこそ作品が根を張り、地に足がつくんだ」。

 これにより、台湾の歴史や社会的事件、ひいては在来植物までもが落差草原の創作のインスピレーションになった。これらのインスピレーションはメンバーが関心、興味を持つ事件の中から汲み取っている。台湾の文化的コンテクストは彼らの想像を開く鍵となった。それを表現するソフトウェアは、落差草原が得意とし、そして愛するファンタジックで実験的なスタイルだ。

 「台湾を題材にするからといって、伝統楽器を使ったり、実地で音声収録をしたりする必要はないんです。もしこれらの素材をもっと未来的な形式に変換できるなら、保存のみを重視する博物館のようなものではなくて、もっと生活に寄り添えるようになり、別の形式で文化の幅と奥行きを伸ばしていくことができるかもしれないのです」。洪御はこう語る。

 一之は、いわゆる「台湾らしさ」に台湾語や客家語、原住民語などの特定の言語や特定のジャンル分類は必要ないのかもしれないと付け加える。「台湾らしさとは世代全体の積み重ねで、台湾文化から生まれた作品でありさえすればそれらは全て含まれるのかもしれません」

<文化+>台湾の物語を音符に 実験音楽バンド「落差草原WWWW」

 最新作「黒夢」(Formosan Dream)は、台湾の作家、王家祥の小説「小矮人之謎」から着想を得た作品だ。英語名を「Formosan Dream」(=台湾の夢)としたのは、抽象的な「黒夢」という二文字よりも、タイトルに記号を残すことでリスナーが跡を辿れるようにし、この曲が「台湾の島嶼の夢に向かう入口」であることを意識してもらうためだ。

 「英語を用いることでこの国、島国とつながりを持つことは、少なくとも入口になる。雲を掴むようなことにはならない。でも、自分たちが好む、はっきり言わない形で表現するというのは変わりません」と一之は楽しそうに語る。

 これによって、落差草原と大衆の間にある扉は開かれる。ほのかに輝く音符はこの門から少しずつ溢れ出している最中だ。

(葉冠吟/編集:名切千絵)