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第56回金馬奨 「ひとつの太陽」と「返校」が最多5冠=授賞式詳細/台湾

2019/12/10 06:07
作品賞を受賞した「ひとつの太陽」チーム。チョン・モンホン監督(前中央)やエグゼクティブ・プロデューサーのイエ・ルーフェン(左手前)があいさつした
作品賞を受賞した「ひとつの太陽」チーム。チョン・モンホン監督(前中央)やエグゼクティブ・プロデューサーのイエ・ルーフェン(左手前)があいさつした

中華圏の映画の祭典「第56回ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)授賞式が11月23日、台北市の国父紀念館で行われた。同映画祭は中華圏で最も権威ある映画賞の一つとされ、例年は中国や香港の映画も多数出品されているが、今年は政治問題を背景に中国が参加を取りやめる異例の状況の中で開かれたこともあり、台湾映画界の金馬奨に込める思いや東南アジア出身の映画人のポテンシャルを感じさせる式典となった。

 ▽台湾映画「ひとつの太陽」と「返校」が最多5部門受賞

 作品賞に輝いたのは、チョン・モンホン(鍾孟宏)監督の「ひとつの太陽」(陽光普照)。これに加え、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、編集賞の5部門を受賞した。授賞式前日の22日に発表された非公式コンペティションの観客賞にも選ばれている。最多12部門でノミネートされていたスリラー映画「返校」も新人監督賞、脚色賞、視覚効果賞、美術デザイン賞、歌曲賞の5冠を制し、「ひとつ~」と並び最多受賞を果たした。  「ひとつ~」はチョン監督にとって、「ゴッドスピード」(一路順風)以来3年ぶりの長編フィクション。物語は、4人家族の次男が傷害の罪で少年施設に入ったのをきっかけに、平凡な家庭に嵐が巻き起こる―という展開。両親役をチェン・イーウェン(陳以文)とコー・シューチン(柯淑勤)が、若手実力派のシュー・グアンハン(許光漢)、ウー・ジェンホー(巫建和)がそれぞれ兄、弟を演じた。

 父親役のチェンは主演男優賞を受賞。「ゴッドスピード」でチョン監督と初めて仕事をして以来、「大仏+」や「小美」などチョン監督がプロデューサーを務める作品にも度々役者として出演しているチェン。映画監督としても知られ、宮沢りえ主演の「運転手の恋」をはじめとする多くの作品で監督を務めてきたが、もともとは役者としてキャリアをスタートさせた。近年、俳優に力を入れ、舞台の世界に戻ろうと考えていたところ、チョン監督に声を掛けられたという。「映画業界を静かに離れようとしている私に対する心遣いだったのかもしれない」とチョン監督に謝意を示した。

プレスルームでトロフィーを手に笑顔を見せるチェン・イーウェン
プレスルームでトロフィーを手に笑顔を見せるチェン・イーウェン
  同作で助演男優賞に輝いたリウ・グアンティン(劉冠廷)は、ジェンホー演じる次男の悪友を演じた。主人公とその家族に恨みを抱き、骨の髄まで吸い尽くそうとする役どころで、登場シーンは多くはないが、狂気に満ちた目が印象的で、圧倒的な存在感を放った。金馬奨は初ノミネートにして初受賞。「最初はチョン監督からなぜ声が掛かったのかわからなかった」といい、「何を考えてるかわからない雰囲気が目に留まったんじゃないか」と分析した。グアンティンは今回のレッドカーペットの司会も務めており、「司会の準備が大変で、スピーチを用意する時間があまりなかった」と明かした。
助演男優賞の受賞スピーチを行うリウ・グアンティン
助演男優賞の受賞スピーチを行うリウ・グアンティン
 チョン監督は作品賞受賞後、「本当にこの作品が最優秀(作品)なのか、ぜひ見てみてほしい」と映画館への来場を呼び掛けた。
式典のパフォーマンスでは、「ひとつの太陽」の主題歌「遠行」が作曲・歌のリン・シェンシャン(林生祥、中央)によって披露された。シェンシャン率いる生祥楽団のメンバーで、同映画の音楽に参加している大竹研(右手前)、早川徹(左)がバックで演奏した
式典のパフォーマンスでは、「ひとつの太陽」の主題歌「遠行」が作曲・歌のリン・シェンシャン(林生祥、中央)によって披露された。シェンシャン率いる生祥楽団のメンバーで、同映画の音楽に参加している大竹研(右手前)、早川徹(左)がバックで演奏した
  

▽「返校」のジョン・スー監督は新人監督賞

  「返校」は国民党独裁政権による白色テロが行われていた時代の高校を舞台に、当時の社会の雰囲気を描き出したスリラー映画。2017年にリリースされた同名のホラーゲームを映画化した。興行収入は今年公開の台湾映画で1位となる2億6000万台湾元(約9億2700万円)を突破し、大ヒットを記録した。

新人監督賞を受賞し、満面の笑みを浮かべる「返校」のジョン・スー監督
新人監督賞を受賞し、満面の笑みを浮かべる「返校」のジョン・スー監督
  メガホンを取ったジョン・スー(徐漢強)監督は新人監督賞を受賞。スー監督は学生時代の2005年にドラマ賞「ゴールデン・ベル・アワード」(金鐘奨)で単発ドラマ賞(現ミニドラマテレビ映画作品賞)を史上最年少受賞するなど経歴は長いが、今回が長編デビュー作。これまでは短編やVR作品を手掛けてきた。途中で転職を考えたこともあったといい、「映画が大好きという気持ちでここまで持ちこたえてこられた」とこれまでの道のりを振り返った。また、「ゲームと映画の両方が好きだからこそ、この作品を撮ることができた」と感慨深げに語った。

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▽青春バスケ映画「下半場」のファンディー・ファン(范少勳)が新人俳優賞 

 新人俳優賞を受賞したのは、青春バスケ映画「下半場」で主演したフェンディ・ファン(范少勳)。一心同体とも言える弟と別々の高校のバスケ部で奮闘しつつ、弟を優しく支え続ける兄を繊細に演じきった。

 関連記事:台湾青春バスケ映画「下半場」 兄弟愛に胸キュン

 授賞式で名前が呼ばれると、フェンディは隣に座っていた弟役のベルナート・チュウ(朱軒洋)と固く抱き合い、“兄弟”の絆の強さを見せた。スピーチでは声を震わせながら感謝を述べ、「本当に嬉しい。これからも頑張っていく」と飛躍を誓った。

プレスルームで、ラッキーアイテムの「赤い靴底」を見せ、ピース姿で喜ぶファンディー・ファン
プレスルームで、ラッキーアイテムの「赤い靴底」を見せ、ピース姿で喜ぶファンディー・ファン
 プレスエリアでは満面の笑みで取材に応じたフェンディ。賞金の使い道を尋ねられると、「両親を日本に旅行に連れていきたい」と親孝行な一面を見せた。
レッドカーペットに登場した「下半場」チーム。助演男優賞にノミネートされたドゥアン・チュンハオ(段鈞豪)、新人賞候補のフェンディ・ファン(前列左2)と共に、弟役のベルナート・チュウ(朱軒洋)もレッドカーペットを歩いた。ベルナートは脇のプレスエリアでは、記者から冗談で「ノミネートされていないのになんで来たの」とからかわれ、苦笑いを見せていた
レッドカーペットに登場した「下半場」チーム。助演男優賞にノミネートされたドゥアン・チュンハオ(段鈞豪)、新人賞候補のフェンディ・ファン(前列左2)と共に、弟役のベルナート・チュウ(朱軒洋)もレッドカーペットを歩いた。ベルナートは脇のプレスエリアでは、記者から冗談で「ノミネートされていないのになんで来たの」とからかわれ、苦笑いを見せていた
 

▽助演女優賞は「我的靈魂是愛做的」のウィニー・チャン

  助演女優賞は、「我的靈魂是愛做的」のウィニー・チャン(張詩盈)が受賞。同性愛を題材にした同作でウィニーは、別居状態の同性愛者の夫と、夫の恋人との間で、もどかしい気持ちを胸の内に隠しながら気丈に冷静にふるまう妻を演じた。

 妊娠満9カ月(当時)というウィニーは大きいお腹でステージに立ち、「現実で起こることは脚本で起こることよりも奇想天外。役者として認められるのはとてもとても幸せ」と涙ながらにスピーチした。

受賞スピーチで涙を浮かべるウィニー・チャン
受賞スピーチで涙を浮かべるウィニー・チャン

 ▽東南アジアの映画人が存在感 

  今回の金馬奨は中国映画不在の中、東南アジアの映画人の台頭に注目が集まった。シンガポールの映画監督、アンソニー・チェン(陳哲芸)の「熱帯雨」が長編フィクション作品賞など5部門にノミネートされ、ヤオ・ヤンヤン(楊雁雁)が主演女優賞を受賞。同じくシンガポールのヨー・シュウホァ(楊修華)監督の「幻土」が脚本賞や作曲賞など2部門を獲得した。ミャンマー出身のミディ・ジー(趙德胤)監督の「灼人秘密」は8部門ノミネート。マレーシア出身の映画監督の作品では、リャオ・カーファ(廖克発)監督の「菠蘿蜜」や「還有一些樹」、リム・クァンヒン(林峻賢)の「蒼天少年藍」、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督の「あなたの顔」([イ尓]的臉、ドキュメンタリー作品賞受賞)も候補に選ばれた。マレーシアの映画人は今年、11人がノミネートされ、史上最多だったという。

脚本賞の受賞時、プレゼンターを務めたシンガポールの女優、ヤオ・ヤンヤン(右後方)と、「幻土」で同賞を受賞したヨー・シュウホァ(右手前)は互いにハグし、喜びを分かち合った
脚本賞の受賞時、プレゼンターを務めたシンガポールの女優、ヤオ・ヤンヤン(右後方)と、「幻土」で同賞を受賞したヨー・シュウホァ(右手前)は互いにハグし、喜びを分かち合った
 

▽台湾映画界の金馬奨への思い

 政治的な対立ムードが立ち込めた昨年とは一転、今年の授賞式は終始アットホームな雰囲気で進行し、今年の金馬奨を盛り上げようとする台湾の映画人たちの心意気と固い団結が感じられた。

 オープニングでは、今年上演されたミュージカル「台湾有個好萊塢」(直訳:台湾にはハリウッドがある)の楽曲や金馬奨のテーマソング「金馬奔騰」を過去の受賞シーンを交えながらミュージカル形式で上演。歌詞には「台湾のエンタメは国外に負けない」「金馬の栄光は自由で美しい」などが盛り込まれ、挑戦に立ち向かう金馬奨を自ら鼓舞する印象を受けた。続いて上映された今年のノミネート作品39本をダイジェストで紹介する映像の最後は「返校」の1セリフ「この全てがどんなに得難いものかを覚えておいて」で締めくくられた

オープニングパフォーマンスの一幕
オープニングパフォーマンスの一幕
  長編フィクション作品賞を受賞した「ひとつの太陽」の原題「陽光普照」は、直訳すれば「太陽は全てを照らす」という意味を表す。同作のイエ・ルーフェン(葉如芬)エグゼクティブプロデューサーは受賞スピーチで「金馬奨という神聖な殿堂では、映画づくりと引き換えにその核心的な価値観を得る。この初心は永遠に変わらない。だからこう願う。過去、現在、未来、いつの時代であっても、暗い夜があっても、影があっても構わない。われわれの作品のタイトルのように、いつの日か太陽は登るものであってほしい」と途中で声を震わせながら切実な思いを口にした。 

▽主な部門の受賞作品・者 

長編フィクション作品賞:ひとつの太陽(陽光普照)

主演男優賞:チェン・イーウェン(陳以文)/ひとつの太陽

主演女優賞:ヤオ・ヤンヤン(楊雁雁)/熱帯雨

助演男優賞:リウ・グアンティン(劉冠廷)/ひとつの太陽

助演女優賞:ウィニー・チャン(張詩盈)/我的靈魂是愛做的

新人俳優賞:フェンディ・ファン(范少勳)/下半場

ドキュメンタリー作品賞:あなたの顔([イ尓]的臉)

短編作品賞:紅棗薏米花生

短編アニメ賞:金魚

監督賞:チョン・モンホン(鍾孟宏)/ひとつの太陽

オリジナル脚本賞:ヨー・シュウホァ(楊修華)/幻土

脚色賞:ジョン・スー(徐漢強)、フー・カイリン(傅凱羚)、ジエン・シーガン(簡士耕)/返校

応募総数は過去2番目に多い計588件だった。内訳は長編フィクション91本、長編アニメ2本、ドキュメンタリー86本、短編フィクション353本、短編アニメ56本。ノミネート作品に中国作品は無かった。(名切千絵)

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