北部・基隆で166年続く中元祭 一族が団結、受け継がれる先人の思い

2020/09/10 05:24 文字サイズ: 字級縮小 字級放大

 あの世の門「鬼門」が開く旧暦7月。北部・基隆市では旧暦8月を迎えるまでの約1カ月間、霊魂を弔い平和への祈りをささげる「中元祭」が盛大に催される。清朝時代から166年間続いてきた伝統行事だ。旧暦7月15日前後に最高潮を迎え、同14日の夜には「放水灯(灯籠流し)」が行われる。

 記者は旧暦7月14日に当たる9月1日、基隆を訪れた。「1年に1回、基隆中が団結する日」――基隆で生まれ育ったガイドの李さんは、海に流される水灯を見つめながら感慨深げにこう語った。儀式とともに受け継がれてきたのは、先人たちの平和を願う思いだ。

水灯を海へ送り出すように花火が豪快に上げられた。台の上には各一族の水灯がずらっと並ぶ。

水灯を海へ送り出すように花火が豪快に上げられた。台の上には各一族の水灯がずらっと並ぶ。

▽受け継がれる先人の知恵 霊魂弔い平和願う

 清朝時代の1850年頃、基隆では中国・福建から渡ってきた漳州人と泉州人が土地などを巡り対立していた。51年には大きな争いに発展し、数多くの命が失われた。そこで、戦いによって血を流すのではなく、武術パフォーマンスを競うことで争いを鎮めた。また、出身地ではなく姓氏という血縁関係によって団結することで対立の解消が図られ、これが祭りの起源となった。現在でも毎年、一族ごとに持ち回りで祭りを主催することになっている。

 旧暦7月1日を迎えると、清朝時代の争いで犠牲になった人々をまつる「老大公廟」では1千個超のちょうちんに明かりがともされる(関連記事:今日から「鬼月」 基隆で伝統行事、無縁仏まつる「陰廟」に明かり)。同日午後には同廟内にある「龕門」と呼ばれる扉を開け、無縁仏たちをこの世に迎え入れる。旧暦7月12日には、霊にお供え物をささげるなど祭りで重要な場所に位置付けられている「主普壇」の点灯儀式が催される。

あの世とこの世をつなぐ「龕門」を開ける儀式(左)と点灯された「主普壇」。いずれも中央社資料写真。基隆市政府提供。

あの世とこの世をつなぐ「龕門」を開ける儀式(左)と点灯された「主普壇」。いずれも中央社資料写真。基隆市政府提供。

▽規模縮小でもにぎわい見せたパレード 派手なトラックが街を駆け巡る

 旧暦7月14日に行われる「放水灯」は、海の中に沈む無縁仏たちを明かりで導き、陸上の霊魂と共に弔うための儀式だ。各一族の水灯が一基ずつ基隆の海に放たれる。

 放水灯が行われる前、水灯を乗せたフロート車が基隆市内をパレードする。新型コロナウイルスの影響で、例年のような武術パフォーマンスを取り入れた祭ばやしの陣頭や獅子舞、演奏隊などは列に加わらなかったものの、電飾で派手に飾り付けられたトラックが長い列をなし、街を駆け巡った。

規模縮小のため交通規制が敷かれず、パレードの列には時折、一般車両が混ざる。

規模縮小のため交通規制が敷かれず、パレードの列には時折、一般車両が混ざる。

 「ドンッドンッ」と重低音でリズムを刻むクラブミュージックが大音量で鳴り響き、これに合わせてトラックの電飾がギラギラと鮮やかに点滅する。台湾では近年、道教の少年神を模した「三太子」が電子音楽に合わせて踊るパフォーマンスが祭ばやしに取り入れるようになっており、ガイドの李さんによれば、これと同時に基隆のパレードでも電飾トラックや電子音楽がはやるようになったという。

▽街中が一つになる夜 思い込められた水灯が海へ

 午後9時過ぎ、パレードを終えた各一族の車が港に続々と集まってきた。車や水灯にはどの一族のものか分かるように「黄」や「林」、「楊」などと大きく文字が入れられている。一族の男性たちは力を合わせて水灯を担ぎ上げ、台湾語で「チョーグエ、チョーグエ(通してください)」と声を上げる。

主催した一族の水灯。今年は白家と童家が合同で主催。

主催した一族の水灯。今年は白家と童家が合同で主催。

 水灯は旧暦15日を迎える午後11時に合わせて海に流される。時間が迫る中、人々はせわしなく動き回る。水灯を台の上に慎重に置くと、一族で手分けして中に金紙を詰めたり、水灯の前に置くお供え物を並べたりする。会場には台湾語が飛び交い、熱気に満ちていた。

手分けして金紙を敷き詰める人々。

手分けして金紙を敷き詰める人々。

 先陣を切って流されるのは、主催する一族が準備した船の形をした大型の水灯。午後10時半ごろ、点火され海に放たれた。水灯が遠ければ遠いほど、その一族は幸運に恵まれると信じられている。この日は満ち潮だったのに加え、前日には台風が接近していたため、海は荒れていた。水灯は高波に何度も押し戻されながらも、炎を上げながら海の中に消えていった。

人々に見守られながら、炎を上げて海の中に流される1基目の水灯。

人々に見守られながら、炎を上げて海の中に流される1基目の水灯。

 各一族の水灯が後に続く。おそろいの服に身を包み、水灯を担ぐ一族の代表者たちは誇らしげだ。「この日のために、皆1年間、準備してきたんだ」。李さんはしみじみとした表情で海を見つめる。新型コロナの影響下でも断たれることのなかった伝統。先人たちの思いは次の世代へと受け継がれていく。

水灯を担ぐ一族の代表者。

水灯を担ぐ一族の代表者。

▽儀式に欠かせない「金紙」 市中心部にある90年続く老舗

 台湾のお参りに欠かせないものといえば「金紙(冥銭)」。基隆市中心部にある「新裕益行」は、90年近く続く老舗だ。店の中にはさまざまな種類の金紙のほか、折った金紙を組み合わせて作ったハスや龍の船などがずらっと並ぶ。

金紙の老舗「新裕益行」の店内。棚にはさまざまな種類の金紙が並ぶ。

金紙の老舗「新裕益行」の店内。棚にはさまざまな種類の金紙が並ぶ。

 台湾では金紙をハスや船、鶴などの形に折って燃やし、先祖や無縁仏にささげることで極楽浄土へ往生するよう願う習慣がある。「あの世へ行くのに困らないように」と古代の貨幣に似た「元宝」の形に折ったものや、紙幣を模したものもよく燃やされる。

折った金紙を組み合わせて作った龍の船(左)。冥銭は台湾元、人民元、米ドルなどさまざま。

折った金紙を組み合わせて作った龍の船(左)。冥銭は台湾元、人民元、米ドルなどさまざま。

 自身で3代目という同店の女主人は慣れた手つきで金紙を次々と折っていく。「嫁いできてからもう30年以上折ってるからね」。客から言われれば何でも作るさと胸を張った。

金紙を折る女主人(左)。店内ではしゃぎ回る孫娘(右手前)は「4代目」になるという。

金紙を折る女主人(左)。店内ではしゃぎ回る孫娘(右手前)は「4代目」になるという。

(楊千慧)