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第22回台北映画奨 「返校」がグランプリ、最多6部門受賞<授賞式詳報>

2020/07/28 06:56
「返校」劇中写真(台北映画祭提供)
「返校」劇中写真(台北映画祭提供)

  優れた台湾映画を表彰する「第22回台北映画奨」授賞式が7月11日、台北市の中山堂で開かれた。今年は長編51本、ドキュメンタリー49本、短編187本、アニメーション44本の計331本の応募があり、計29作品が各賞にノミネートされた。本記事では授賞式の詳細をお届けする。

  ▽スリラー映画「返校」がグランプリ含む最多6冠制覇

  全ノミネート作品の中から最も優れた作品に贈られる「グランプリ」(百万大奨)に選ばれたのは、戒厳令下の台湾を題材にしたスリラー映画「返校」。同作はこのほか、長編劇映画賞、主演女優賞、美術賞、視覚効果賞、音響効果賞も受賞し、最多6部門を制した。

  返校は、国民党独裁政権による白色テロが行われていた1962年を時代背景に、夜中の学校を舞台として人々の自由への渇望を描き出した作品。昨年秋に公開され、興行収入約2億6000万台湾元(約9億5000万円)の大ヒットを記録した。  審査員団主席のウー・ニエンジェン(呉念真)は同作をグランプリに選んだ理由について、「台湾映画の可能性を教えてくれた」と言及。若者が好む形の作品にしつつも、台湾の歴史を後半に盛り込んだと評価し、「これは私たちが今後、発展させていくべき方向性かもしれない」と述べた。

  同作でヒロインを演じたジングル・ワン(王浄)は、個人の気品と観客を作品に引き込む力で人物に魂を込めたとして主演女優賞を初受賞した。

トロフィーを手に笑顔を見せるジングル・ワン
トロフィーを手に笑顔を見せるジングル・ワン
  ▽最多14部門にノミネートされていた「下半場」は3冠に終わる

  最多14部門にノミネートされていた青春バスケ映画「下半場」は、監督賞、撮影賞、傑出技術賞の3部門の受賞に留まった。

  <関連記事>台湾青春バスケ映画「下半場」 兄弟愛に胸キュン

  監督賞を受賞したチャン・ロンジー(張栄吉)監督は、主演俳優賞や助演男優賞にノミネートされていたフェンディ・ファン(范少勳)とベルナート・チュウ(朱軒洋)などが受賞を逃したことに触れ、「私の心の中では彼らが一番」とねぎらい、「裏方スタッフの頑張りがなければ、監督の功労はない」と全ての制作スタッフに感謝を述べた。

チャン・ロンジー監督
チャン・ロンジー監督
  同作は、正式コンペティションでは3冠に終わったが、非公式コンペティションでは「観客賞」を受賞した。この観客賞は台北映画祭の観客投票によって決まるもので、映画ファンから高い支持を集めたことが示された。だが実は、8000万台湾元(約2億9000万円)の製作費に対し、昨年8月の一般公開時の興行収入は約2500万元(約9000万円)と振るわなかった。チャン監督は「ダメージは少し大きかった」と当時の心境を告白。次回作については、現在は構想を練っている状態で、まだ具体化はしていないと明らかにした。
授賞式前のフォトコールに登場した「下半場」のフェンディー・ファン(左)とベルナート・チュウ(台北映画祭提供)
授賞式前のフォトコールに登場した「下半場」のフェンディー・ファン(左)とベルナート・チュウ(台北映画祭提供)
 ▽主演男優賞にはモー・ズーイー 演技部門での受賞は初

  主演男優賞には「親愛的房客」で大家の高齢女性とその孫を世話する入居者の男性を演じたモー・ズーイー(莫子儀)が選ばれた。現在39歳のズーイーは役者として20年以上のキャリアを持つが、俳優部門の賞を受賞するのは今回が初めて。「自身の受賞を通じて、より多くのクリエーターにとって何か感じるものがあれば」と語った。 

「親愛的房客」劇中写真(台北映画祭提供)
「親愛的房客」劇中写真(台北映画祭提供)
 ペン記者の囲み取材では、主演女優賞を受賞したワン・ジンが元気いっぱいに明るく受賞の喜びを語ったのとは対照的に、落ち着いた雰囲気で言葉を選びながら質問に答える姿が印象的だったズーイー。役者として初の賞を手にしたことにからみ、「受賞者が最も優秀だということではない。ノミネートすらされたことのない役者もたくさんいるけれど、その人たちの演技がダメだというわけではない」と述べ、謙虚な姿勢をのぞかせた。
モー・ズーイー
モー・ズーイー
 ▽10代俳優の活躍目立つ

  今回は新人賞、助演男優賞の2部門を10代の俳優が受賞し、若い力を感じさせた。

  新人賞を受賞したリー・リーロン(李曆融)は15歳。少年観察所を舞台にした短編「主管再見」で、表向きは強がっているものの内心は孤独を抱える少年・ヤマハを演じた。 

「主管再見」劇中写真(台北映画祭提供)
「主管再見」劇中写真(台北映画祭提供)
 リーロンは以前、映画「十年台湾」などに出演した経験はあるものの、演技経験は少ない。囲み取材でも初々しさが印象的で、何を話せばいいのかわからないといった様子でぽつりぽつりと回答していた。中部・雲林県の村の出身で、ノミネートされていることは「村中が知っている」と明かし、誇らしげにはにかんだ。 
リー・リーロン
リー・リーロン
 リーロンとは反対に、チャン・ツォーチ(張作驥)監督作の「那個我最親愛的陌生人」の演技で助演男優賞を受賞したリー・インチュエン(李英銓)は弱冠13歳ながら、貫禄を見せた。
「那個我最親愛的陌生人」劇中写真(台北映画祭提供)
「那個我最親愛的陌生人」劇中写真(台北映画祭提供)
  インチュエンは、6年の刑期を経て刑務所から仮出所した母親との関係に戸惑う少年を演じ、「品が目を引くものであり、繊細な役作りによって人物の情感を正確に引き出しつつ、通俗的ではなくいきいきと演じた」と評価された。

  名前が呼ばれた瞬間「まさか自分とは」と驚いたというインチュエン。今後の活躍が期待されるものの、本人は「まずは学業に専念したい。学業をしっかりやってから、時間と能力があれば(役者の仕事について)考えたい」と平常心。もしハリウッドで活躍する台湾出身の映画監督、アン・リー(李安)からオファーがあったらどうするか質問されると、「その時考えてみます」と話し、しっかりとした受け答えで大物感を漂わせた。 

リー・インチュエン
リー・インチュエン
 ▽その他の主な受賞者・作品 

<助演女優賞>ヤオ・イーティ(姚以緹)「ギャングだってオスカー狙いますが、何か?」(江湖無難事) 

 同作は映画監督志望の青年とその親友がギャングの親分のために映画を撮ることになるものの、ヒロインを演じるはずだった親分の愛人が予期せぬ事故で死んでしまい、あの手この手をつかってピンチを乗り切ろうとするというコメディー。イーティは親分の愛人と死体、トランスジェンダーの3役を演じた。 

 受賞スピーチでは「役者の道は果てしないもの。女性の自主権や性同一性と同じように」と述べ、大きな拍手を浴びた。プレスルームでは「多くの人に自分の演技と作品をみてほしい」と意欲を見せた。

ヤオ・イーティ
ヤオ・イーティ
 <ドキュメンタリー賞>「阿紫」

  台湾の田舎に結婚仲介業者を通じて嫁いできたベトナム人女性・阿紫の姿を追った作品。阿紫の夫と、夫側の家族、そしてベトナムにいる阿紫の家族、それぞれの苦悩が丁寧に描き出された。メガホンを取ったのはウー・ユーイン(呉郁瑩)監督。ウー監督は授賞式には出席しなかった。

  「社会的少数者を題材に、大きな思いやりの心で撮影対象者に寄り添った。記録者が社会の底辺にいる人物の困難に向き合う際に、真摯な勇気がそこにはあり、現代社会における重要な一面を見せた」と評価された。同作は編集賞も受賞した。

「阿紫」劇中写真(台北映画祭)
「阿紫」劇中写真(台北映画祭)
  <短編作品賞>「幽魂之境」

  武力紛争下でミャンマー政府に徴用され、逃亡中に捉えられた子ども兵士の苦しみを描いた作品。史実を基にしている。監督はロー・チェンウェン(羅晨文)。

  「長編作品の構造で作品を作り上げ、乱世における命の卑しさと虚しさを表現した。シーンの流れがスムーズで、完全に叙述された」と評価された。

「幽魂之境」劇中写真(台北映画祭提供)
「幽魂之境」劇中写真(台北映画祭提供)
  <アニメーション作品賞>「大冒険鉄路」

 真っ暗なトンネルで緊急停車した観光列車に招かれざる客がこっそり乗り込んできてーーという物語の約15分間の作品。「多重的な技法によって、独特で、古典的かつSF風な世界観を描き出した。アニメーション技術が成熟し、物語の構造が完全であり、細部に驚きが散りばめられた」と受賞理由が紹介された。 

「大冒険鉄路」劇中写真(台北映画祭提供)
「大冒険鉄路」劇中写真(台北映画祭提供)
 ▽リン・チーリンとアリス・クーがサプライズ登場

  今回の授賞式では2つの大きなサプライズがあった。

  オープニングでは、出席が公表されていなかった女優でモデルのリン・チーリン(林志玲)が突如として登場。人気グループ「EXILE」のAKIRAとの結婚後は公の場に姿を見せることが少なかったため、視聴者を驚かせた。

オープニングにサプライズ登場したリン・チーリン(台北映画祭提供)
オープニングにサプライズ登場したリン・チーリン(台北映画祭提供)
 司会者のミッキー・ホアン(黄子佼)はステージに立つと、この日の特別な相棒として女優のアリス・クー(柯佳嬿)を紹介。アリスは今回が司会初挑戦となった。ノミネート作品29作品全ての名前を暗記して一気に読み上げるというパフォーマンスも披露し、会場を沸かせた。
ミッキー・ホアンに手を取られながらステージに現れるアリス・クー(台北映画祭提供)
ミッキー・ホアンに手を取られながらステージに現れるアリス・クー(台北映画祭提供)
 

(名切千絵)

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