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第21回台北映画賞 短編映画がグランプリに 目立った“高齢”

2019/07/23 06:17
第21回台北映画賞受賞者の集合写真(台北映画祭提供)
第21回台北映画賞受賞者の集合写真(台北映画祭提供)

優れた台湾映画を表彰する「台北映画賞」(台北電影奨)。21回目となった今年はルールを一新し、長編や短編など作品の区分ごとに作品単位で入選リストを発表する従来の形式から、作品賞や主演賞など部門ごとにノミネートを発表する形式に変更された。7月13日に台北市の中山堂で授賞式が行われ、受賞者が発表された。▽グランプリは実験的な短編映画に

 長編、短編、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門作品賞受賞作の中から選ばれる最高賞のグランプリ(百万首奨)に輝いたのは、短編映画「去年火車経過的時候」(Last Year When the Train Passed by)。短編がグランプリになるのは3度目だという。同作は電車の車窓から撮影した写真に写った民家をその翌年に訪ね、民家の人々に「去年のその時に何をしていたのか」を聞くという斬新な切り口の作品。民家や風景を捉えたフィルム写真にインタビューの音声を乗せるという形式で表現され、話者が話している際の表情は見ることができない。メガホンを取ったのは、フランスで映画を学んだホアン・バンチュエン(黄邦銓)監督。ホアン監督は昨年も前作の短編「回程列車」で台北映画賞に入選していた。

 ホアン監督はグランプリの賞金100万台湾元(約350万円)の使い道を聞かれると、「私の作品には写真フィルムを使うので、フィルムをたくさん買いたい」。完成したばかりという次回作は東京で撮影したという。

短編映画「去年火車経過的時候」でグランプリ、短編作品賞の2部門を制したホアン・バンチュエン(黄邦銓)
短編映画「去年火車経過的時候」でグランプリ、短編作品賞の2部門を制したホアン・バンチュエン(黄邦銓)
 同作のグランプリ選出について審査員長のリー・リエ(李烈)は、「台北映画賞の精神を有し、将来性がある」ことが決め手になったと説明。台北映画賞は「台湾の優秀な映像創作者の発掘、多様な題材や表現形式の奨励によって台湾映画の可能性を開拓すること」をねらいに掲げる。審査の際には、ドキュメンタリー作品賞の「あなたの顔」([イ尓]的臉、ツァイ・ミンリャン監督)との間で意見が割れていたという。

▽「老大人」が最多4部門受賞 「高齢」がキーワード

 今年の受賞結果を見渡してみると、「高齢」というキーワードが浮かび上がってくる。高齢の親とその世話に悩む子供の関係を描いた「老大人」(Dad’s Suit)が長編作品賞や撮影賞、主演男優賞、助演女優賞の4部門を制し、最多受賞となったほか、主演男優賞には「老大人」で高齢の父親を演じた71歳のシャオフードウ(小戽斗)、2人が同時受賞した主演女優賞の一人には、81歳のリウ・インシャン(劉引商)が選ばれた(もう一人の受賞者は「野雀之詩」のリー・イージェー(李亦捷))。受賞作の短編映画「帯媽媽出去玩」(A Trip With Mom)でリウが演じたのは、認知症を患う母親という役どころ。同作も「老大人」と同様、高齢の親と子供の関係に焦点が当てられた。

主演男優賞を受賞したシャオフードウ(中央)、主演女優賞受賞のリウ・インシャン(左)、リー・イージェー(右)
主演男優賞を受賞したシャオフードウ(中央)、主演女優賞受賞のリウ・インシャン(左)、リー・イージェー(右)
「老大人」劇中写真(左)、「帯媽媽出去玩」劇中写真(いずれも台北映画祭提供)
「老大人」劇中写真(左)、「帯媽媽出去玩」劇中写真(いずれも台北映画祭提供)
 台湾は人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が2018年に14.05%に達し、「高齢社会」に突入した。2026年には高齢化率が20%以上の「超高齢社会」になると推測され、日本や米国、フランス、英国などと比べても速いスピードで高齢化が進行している。高齢者をテーマにした作品はかねてからあるが、今年の台北映画賞で「高齢の親とその世話をする子供」を描いた2つの作品が図らずも同時に注目されたことは、台湾社会が直面する現状の一端を少なからず反映しているのではないだろうか。

 台北映画賞の主演賞受賞者として、シャオフードウとリウ・シャンインは共に最高齢となった。主演賞を男女揃って70代以上の超ベテランが受賞するのは異例中の異例と言えるだろう。

 今年の俳優賞のノミネート自体もベテラン勢が目立った。男女の各主演賞、助演賞のノミネート者計20人中、40歳以上は14人。うち60歳以上が7人で、全体の約3分の1を占めた。

▽アニメ作品賞受賞の「當 一個人」、台湾アニメのポテンシャル示す

 アニメーション作品賞のノミネート作品には、台湾アニメのポテンシャルの高さを感じさせる作品が揃った。候補になった5作品にはそれぞれ、自由な発想や創造性、精巧さなどそれぞれの個性が光った。受賞作の「當 一個人」(Where Am I Going?)はストップモーションアニメ。伝統工芸の捏麺人(小麦と糯米粉を粘土状にして作った人形)を使ってセットが作られた。一人暮らしの高齢男性を主人公に台湾の生活風景を哀愁とともに描き出し、都市計画による強制退去の問題や台湾の町では馴染み深い網戸修理屋の宣伝アナウンス、廟などの要素が盛り込まれている。捏麺人の精巧さは見事で、目玉焼きが焼ける様子などがリアルに表現された。ホアン・ユンシュエン(黄勻弦)監督は捏麺人を生業とする家庭で育ち、誰も捏麺人を題材とする作品を作っていなかったことから、自身の作品で用いることにしたという。

 同作はアニメ作品賞に加え、美術デザイン賞も受賞。美術デザイン賞の受賞スピーチで、「生涯で一番取りたかった賞」と満面の笑みを浮かべたホアン監督。「台湾の文化を世界に伝えたい。台湾の文化は本当に素晴らしい」とし、台湾初の長編ストップモーションアニメの制作に意欲を示した。

 同作は昨年の第54回ゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)の短編アニメ賞も受賞している。

▽ツァイ・ミンリャン監督が監督賞 「あなたの顔」で3部門制覇

 台湾映画の巨匠、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督のドキュメンタリー「あなたの顔」([イ尓]的臉)はドキュメンタリー作品賞、監督賞、音楽賞(日本の音楽家・坂本龍一が受賞)の3部門を制した。同作は、13人の顔を一人づつ写し出していくという作品。ツァイ監督は「台北映画賞にノミネートされたら必ず受賞してしまう。だんだん怖くなってきた」と笑い、プレスルームでは「変な映画で2つも賞を取ってしまった」と自虐的に話した。

プレスルームでトロフィーを手にするツァイ・ミンリャン監督
プレスルームでトロフィーを手にするツァイ・ミンリャン監督

▽新人賞は「大餓」のツァイ・ジャーイン、個性派役者の活躍願う

 新人賞には、太った女性の苦悩を描いた「大餓」(Heavy Craving)に主演したツァイ・ジャーイン(蔡嘉茵)が選ばれた。ジャーインが演じたのは、肥満体型によって不当な扱いを受け、ダイエットに乗り出すことになった30歳の女性。学生時代、バスケットボール選手として活躍していたジャーインは、大学で演劇を専攻し、舞台の世界に入った。同作は映画初主演作。受賞スピーチでは「私は個性的な役者」と語り、「自分の存在によって創作者にとって創意の幅が広がれば」と多様な個性を持つ役者の活躍の機会拡大を願った。

プレスルームでトロフィーを手に微笑むツァイ・ジャーイン
プレスルームでトロフィーを手に微笑むツァイ・ジャーイン
 ダイエットを題材とした映画と聞くと、太った女性が痩せて綺麗になるというシンデレラストーリーが思い浮かぶが、この作品は全く違う。巨漢女性と、爽やかな外観の下に秘密を抱える男性、女装趣味を持つ優等生の男の子の3人の交流を軸に、3人それぞれの前向きさや苦悩が軽いタッチで描かれ、「自分を受け入れること」をメッセージとして伝える。特筆すべきは料理のシーン。主人公が運動に励むシーンを見てダイエット意欲が掻き立てられる一方、非常に鮮やかに、美味しそうに写される料理に食欲がそそられた。
「大餓」劇中写真(台北映画祭提供)
「大餓」劇中写真(台北映画祭提供)
 

▽ビビアン・スー、主演女優賞受賞ならず

 ホラー映画「人面魚:紅衣小女孩外伝」で主演女優賞にノミネートされていたビビアン・スー(徐若[王宣])はボブヘアに真っ赤なロングドレスの優雅な装いで式典に出席。受賞は逃したが、同作でビビアンは美を封印し、体当たりの演技でいつもとは違う一面を見せた。

今年の映画祭PR大使を務めたアリエル・リン(林依晨)も授賞式前のフォトセッションに登場した。

授賞式直前にプレスルームに登場したビビアン・スー(左)、アリエル・リン(右)
授賞式直前にプレスルームに登場したビビアン・スー(左)、アリエル・リン(右)

▽その他の受賞者

助演男優賞:リン・ハーシュエン(林鶴軒) 「切小金家的旅館」

助演女優賞:フィービー・ホアン(黄嘉千) 「老大人」

編集賞:シエ・モンルー(解孟儒) 「人面魚:紅衣小女孩外伝」

撮影賞:チョウ・イーウェン(周以文) 「老大人」

脚本賞:リン・ハオプー(林浩溥) 「3天2夜」

芸術貢献賞(アクションデザイン) :スコット・ハン(洪昰顥)「狂徒」

視覚効果賞:ムーンシャインVFX(夢想動画) 「狂徒」

音声デザイン賞:ドゥー・ドゥージー(杜篤之)、チャン・イージェン(江宜真) 「幸福城市」

メイクアップ・衣装デザイン賞:イレブン・チェン(陳漪) 「切小金家的旅館」

楊士琪卓越貢献賞:ミッキー・チェン(陳俊志)

▽台北映画祭、VRに注目

 台北映画賞のノミネート作品などを上映する台北映画祭(台北電影節)は6月27日から7月13日にかけて台北市内で開かれた。今年の同映画祭では昨年に続き、VR(仮想現実)映画の上映プログラムが設けられた。今年は世界的に評価されている作品9本をラインナップ。台湾からは唯一、ホアン・シンジエン(黄心健)監督の「失身記-上」(The Missing Body Episode 1)が出品された。

台北映画祭のVR会場に設置された「失身記―上」の上映ブース
台北映画祭のVR会場に設置された「失身記―上」の上映ブース
 同作は体外離脱を疑似体験させ、コントローラーを自分で操作しながら台湾の伝統的な宗教祭典などの空間を漂っていくという内容。作品紹介によると、台湾の歴史を題材に、監督の幼少期の記憶に基づいて戒厳令下の独裁政治や植民文化、デジタル時代における人間らしさの低下などを物語に転換させたという。音楽は台湾を代表する映画音楽家、リン・チャン(林強)が手掛けた。同作は今年5月に開かれたカンヌ・フィルム・マーケットの新設プログラム「カンヌXR」のショーケースで初公開されていた。

 筆者がVR映画を体験するのは今回が初めてで、他の作品との比較はできないが、同作では本当に異世界に迷い込んだような気分にさせられた。女性がこちらの顔に沿わせるように手を動かすシーンがあるのだが、自分が実際にその動作をされているように感じ、身震いをしそうになった。台湾の宗教的要素が世界観にあふれており、台湾ならではの作品だと感じた。「失身記」は2部作の予定だという。

(名切千絵)

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