台湾のテレビ業界の祭典「ゴールデン・ベル・アワード」(電視金鐘奨)の第53回授賞式が10月6日、台北市の国父紀念館で行われた。最も注目が集まるのは、なんと言ってもドラマ部門。今年は歌手で俳優のクラウド・ルー(盧広仲)が主演した「お花畑から来た少年」(花甲男孩転大人)や俳優のピーター・ホー(何潤東)が主演、監督、脚本を務めた「翻牆的記憶」などが作品賞にノミネートされ、賞を争った。
同アワードは、ドラマ、バラエティー、科学、紀行、子供番組など幅広いジャンルのテレビ番組を対象とし、ジャンル別に優秀な作品や出演者、制作者らを表彰する。主催する文化部(文化省)影視及流行音楽産業局によれば、今年は38の賞に計1876件の応募があったという。
▽クラウド・ルーが初ノミネートにして2冠 今回の金鐘奨は、クラウド・ルー(盧広仲)が“主役”になったと言っても過言ではないだろう。本格的な俳優デビュー作にして初主演した「お花畑から来た少年」で、ドラマ部門新人俳優賞と同主演男優賞の2部門にノミネートされ、いずれも受賞を果たした。もちろん、金鐘奨へのノミネートも初めて。
クラウドは、主演男優賞の発表後の取材で、「(先に発表されていた)新人俳優賞を取ったから、主演男優賞はないだろうと思っていた」と予想外の受賞に喜びを隠しきれない様子。女優歴10年で主演女優賞を初受賞したホアン・ペイジャー(黄姵嘉)には「初めてのノミネートで、2つのトロフィーを獲得するなんて。なんてこった」と羨ましさと悔しさが入り混じった表情で祝福を送られた。「お花畑~」はドラマ部門作品賞と助演男優賞も受賞し、計3部門を制した。
▽最多受賞は「台北歌手」の5部門最多受賞となったのは、客家テレビの「台北歌手」。日本統治時代に注目を浴びた台湾の作家で、中国共産党員でもある呂赫若の生涯を描いた。呂の小説を舞台劇で表現したシーンを「劇中劇」の形で織り交ぜ、台湾のドラマ史上ではほとんど見られない新たな試みがなされた。脚本は主演のモー・ズーイー(莫子儀)とロウ・イーアン(楼一安)監督が手掛けた。その斬新さが評価され、革新番組賞を獲得したほか、ドラマ部門脚本賞、主演女優賞、助演女優賞、照明賞の計5部門を制した。▽ミニドラマ部門作品賞受賞のチェン監督、「言論の自由」の重要性訴える
ミニドラマ(テレビ映画)部門の作品賞を受賞したのは、大人の世界に足を踏み入れた若者の心を台湾社会の変遷を交えながら描いた青春群像劇「太陽を見つめた日々」(他們在畢業的前一天爆炸2)。今回の金鐘奨最多の11部門12ノミネートを果たしたものの、結果は作品賞、監督賞の2部門のみの受賞にとどまった。
チェン・ヨウジエ(鄭有傑)監督が受賞スピーチで繰り返し触れたのは、台湾の「言論の自由」。2014年に中国との「サービス貿易取り決め」に反対する学生らによって起こった「ひまわり学生運動」を背景としている同作。中国発祥の動画配信サービス「IQIYI」(愛奇芸)の台湾向けサイトで突如配信停止になるという出来事もあった。チェン監督は「台湾での作品制作は低迷している」と現況を憂いながらも、「台湾には優秀なスタッフ、役者がいる」と胸を張り、「頑張り続ければ希望はある。希望があれば頑張り続けられる」と台湾で作品を作り続けていくことへの深い思いを声をつまらせながら語った。この発言の背景には、韓国のアイドルグループTWICE(トゥワイス)に所属する台湾出身のツウィ(周子瑜)をはじめ、近年多くの台湾の芸能人がその言動などによって「台湾独立派」とのレッテルを貼られ、中国でボイコットの標的にされたことがある。同作は敏感なテーマを取り上げていることから、チェン監督は撮影開始前、キャストに出演の意向について改めて確認を取ったという。チェン監督はプレスエリアのインタビューで、「台湾は両岸三地(台湾、香港、中国)の中で唯一言論の自由がある場所」と前置きをした上で、「自由はお金では買えない。自由は失ったらお金では買い戻せない」とビジネス上の理由で中国に台湾の人材が流れ込むことへの危機感を示した。
▽ピーター・ホーが「翻牆的記憶」で監督賞俳優のピーター・ホー(何潤東)は、自身が主演、監督、脚本を務めた「翻牆的記憶」で監督賞を初受賞した。20年に及ぶ芸能生活でモデルや歌手、俳優、プロデューサーなど様々な役割を担ってきたピーター。「人生は不思議なもの」と感慨深げに語り、監督としての自身を支えてくれた同作のスタッフに感謝を示した。今後も俳優を続けるかについては「続けます。いい役のオファーがあれば」とし、今回の受賞によって「将来の可能性が広がった」と監督として活躍していくことに意欲を見せた。
▽ドラマの主題歌をウェイ・リーアンや八三夭が熱唱
授賞式を盛り上げるパフォーマンスには、歌手のウェイ・リーアン(韋礼安)やロックバンドの八三夭(バーサンヤオ、831)らが登場した。リーアンはドラマ部門の作品賞にノミネートされた5作品の主題歌をメドレーで披露。クラウドの「魚仔」(お花畑~)、草東沒有派対(No Party For Cao Dong)の「爛泥」(麻酔風暴2)などをリーアンならではの表情豊かな歌声で歌い上げた。
八三夭は「原生IP(知的財産)」をテーマにパフォーマンス。「花より男子」(流星花園)や「ハートに命中100%」(命中注定我愛你)、同名小説を原作とする「還珠格格」などメディアミックス展開に成功した台湾ドラマの主題歌を熱唱した。(名切千絵)