山口と台湾の知られざるつながりを紹介する書籍「山口,西京都的古城之美」が先月下旬、台湾で出版された。作者は山口県出身で、現在は台湾を拠点とするエッセイストの栖来ひかりさん。栖来さんは同書をきっかけに、台湾とゆかりが深い山口県を台湾の人々に旅してもらい、自分のルーツや台湾の歴史について理解を深め、思索してもらえればと話す。
同作の出版においては、栖来さんが昨年出版した著書「台湾、Y字路さがし」の執筆のために歴史などを調べた際に、山口と台湾の様々なつながりを知り、自身が現在台湾にいる意味について考えるとともに、故郷への愛着や台湾への愛情が増したことが執筆の起点になっていると栖来さんは話す。元々出版社からは台湾で人気が高い「京都」をテーマにするよう依頼されていたものの、実際に編集者と会い、自身の故郷が山口県で、台湾との関係も深いということを話すうちに山口に興味を持ってもらえるようになったという。
同書では、下関や萩、防府、岩国など山口県内各地のスポットが紹介され、それぞれについて台湾との関係や縁がつづられている。山口出身の台湾総督、児玉源太郎や佐久間左馬太、台湾社会の発展に貢献した実業家、台湾高速鉄道(新幹線、高鉄)で使われる車両の製造、納品に関わった日立製作所笠戸事業所などに関するエピソードも登場する。栖来さんによると、取材から執筆完了までには約半年を費やした。昨年の夏に県内を車で取材してまわり、終了時には走行距離が3000キロに達していたという。
台湾や澎湖諸島の日本への割譲などが盛り込まれた日清講和条約が締結された場所は下関。「台湾と山口県がここまで深く関わることになった大きな原因は長州藩が明治維新で主導的役割をしたことにある」と指摘する栖来さん。そこにはプラスとマイナス、様々な側面があるとしながらも、「実はもっともっと昔から、対馬海流を通じて台湾と山口とは交流をしてきたような痕跡が残っている」と話す。
現在は、同様のテーマで内容やスタイルを日本人向けに変更した日本語書籍の出版を準備中。「単なるガイドブックではなく、一つの県をまるごと歴史や地形力学の視点からも考える『風土記』のような視点を持った本というのは、日本でもそんなに出ていないのではないか」と自信をのぞかせた。
(名切千絵)