築80年を超える4階建ての伝統的な家屋の赤れんが壁にギリシャ神話に登場する人魚「セイレーン」(Siren)をかたどったコーヒーチェーン店「スターバックス」のロゴマークが描かれている。この建物「萬華林宅」は2016年4月にオープンしたスターバックスコーヒー[舟孟][舟甲]店「萬華林宅」である。
スターバックスは近年、特色のある店舗を開発することに力を入れている。スターバックス・コーヒー[舟孟][舟甲]店は[舟孟][舟甲]大通りと西園路の交差点に位置し、日本統治時代の1932年に地元の名士であった林細保氏とその一族が建てた邸宅。この建物は2000年に台北市の「市定古跡」に指定された。古跡に認定されている建物にスターバックスが入居するのは初めて。
店員によれば、この古跡を利用した[舟孟][舟甲]店で働き始めた当初、とてもユニークな感じがしたという。来客が多くて、特に休日には日本人が少なくない。近くの観光名所の龍山寺を訪れた日本人が観光ガイドマップを見て店に来る。店内に長いバーカウンターを設け、店員がコーヒーなどを入れたりしている。この店は台湾のスターバックスとして初めてサイフォン式コーヒーを提供する店である。来客はバーカウンターで注文し、コポコポと湧き上がるお湯を眺めるのも幸福感が感じられる。スイーツはスタバと統一グループ傘下の昂舒巴黎(Un Jour À Paris)と提携し、作られたもので、どれも美味しそう。
萬華林宅は落成後、[舟孟][舟甲]地域のランドマークになった。外壁はバロック様式の彫刻、装飾などが取り入れられ、豊作や裕福を象徴する。廊下、木製の扉、左右対称の木製窓など、台湾建築の細かい工夫が施されている。各フロアのバルコニーの欄干にはそれぞれ柳葉や、菱、棒状の形などのデザインが施された。建物の正面の外壁には西洋式の装飾、屋根には日本風の瓦も用いられ、和・洋・台の折衷建築となっている。[舟孟][舟甲]店の1階の壁面には物語風のイラストが描かれ、この建物の建築とその背景を知ることができる。2階に客席もあり、壁面にはセイレーンをモチーフにした刺繍の大型の額飾りがある。これは現代刺繍アーティスト、黄莉莉の作品である。創作の源は林家のお嬢様の趣味である。[舟孟][舟甲]店1階の中庭にはテラス席がある。このくつろぎの空間で、コーヒーを飲みながら、赤れんがの建物を眺めるのもいい。赤れんがは日本統治時代に「台湾煉瓦株式会社」が生産した一級品で、台湾総督府(現在の総統府)が採用した赤れんがと同じクラスである。
この建物には第2次世界大戦の残影が見える。屋外に地下室の入り口があり、透明ガラスに覆われている。かつて防空壕として使われた。また、戦争時、政府は軍備資源不足のため、金属類回収令を出した。窓には、鉄格子が切断された跡がいまでも残っている。(楊明珠)