優れた台湾映画を表彰する「台北映画賞」(台北電影奨)第19回授賞式が7月15日、台北市内で開催された。今年は293作の中から選ばれた長編フィクション、短編、ドキュメンタリー、アニメーション計40作品が賞を争った。
▽主演男優賞はウー・カンレンが初受賞主演男優賞に輝いたのは「白蟻-欲望謎網」のウー・カンレン(呉慷仁)。ウーは下着の窃盗癖を持ち、心に闇を抱えた役に挑戦。役作りのために大幅な減量も成し遂げた。誇張し過ぎない演技で役の特質をつかみ、心のうちを立体的で豊かに表現したことが評価された。
昨年、テレビ番組を表彰するゴールデン・ベル・アワード(金鐘奨)で主演男優賞を獲得したウー。映画に関する賞の受賞は今回が初となる。スピーチでは「わお」と3度ももらし、言葉にならない喜びを示した。また、「役者という仕事が好き。これからも人々に夢を与えていきたい」と意欲をのぞかせた。ウー・カンレンは2009年に「ミャオミャオ」(渺渺)で台北映画賞新人賞にノミネート。実はウーにとって、台北映画祭は俳優人生で初めて参加した映画関連のイベントだという。だからとあって、台北映画奨の受賞は自身にとって非常に喜ばしいことだと語った。
審査員団によると、「大仏普拉斯」のチェン・ジューション(陳竹昇)、「川流之島」のチェン・レンショウ(鄭人碩)、「目撃者」のキャッシュ・チュアン(荘凱[員力])なども候補に挙がっていたという。
▽最多受賞は「大仏普拉斯」 5冠に最多5冠を制したのは「大仏普拉斯」。グランプリのほか、長編フィクション作品賞、編集賞、音楽賞、美術デザイン賞に選ばれた。
台湾の田舎を舞台に、社会の片隅で生きる中年の男が工場オーナーのドライブレコーダーを盗み見したのを発端に、さまざまな事件が巻き起こるというストーリーの同作。全編モノクロで表現されているほか、台湾語が主に使用され、台湾のローカル色が色濃い、独特の世界観を持つ作品だ。2015年に台北映画祭でも上映された短編「大仏」がベースになっている。メガホンを取ったホアン・シンヤオ(黄信堯)監督は2011年にドキュメンタリー「沈沒之島」で台北映画賞のグランプリを受賞しており、今回で2回目のグランプリ受賞となる。ホアン監督は、ドキュメンタリーとフィクションは創作の上で異なるものだとし、今回の受賞は自身にとってうれしいことだと語った。同作の製作費は約3000万台湾元(約1億900万円)。資金を回収するためには興行収入が頼りだと本音をもらし、10月に予定している一般公開を力強くPRした。また、「より多くの投資家が台湾映画に投資してくれれば」と呼び掛けた。
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▽服役中のチャン・ツォーチ監督が手掛けた「鹹水鶏的滋味」が短編作品賞短編作品賞にはチャン・ツォーチ(張作驥)監督の「鹹水鶏的滋味」が選ばれた。チャン監督は強姦の罪で懲役3年10カ月の実刑判決を受け、2015年4月から服役中。同作は受刑者が発表した同名の短編小説を基に、命の教育の教材として法務部(法務省)矯正署台北刑務所によって製作された。矯正機関が賞を受賞するのは初。
1人の受刑者が末期がんの母親から差し入れされた「鹹水鶏」(塩漬け鶏肉をゆでた料理)を通じ、1室の雑居房で共同生活を送る8人の受刑者の交流を描いた。愛と思いやりがテーマになっている。
チャン氏は監督と編集を担当。役者は全て受刑者で、志願者の中から選ばれたという。スタッフも刑務官と受刑者が務めた。撮影は昨年8月に2週間をかけて実施。台北刑務所の担当者によると、撮影時間は1日6時間に限られた上に、他の受刑者の生活に影響を与えないよう、現場は黒い布で囲まれ、非常に暑くて大変だったという。台北刑務所は、「受賞によって受刑者の栄誉感と自己肯定感が増し、一種の更生の成果だといえる」とコメントを発表している。
同作は法務部矯正署台北刑務所の公式ホームページで全編が公開されている。
(http://www.tpp.moj.gov.tw/ct.asp?xItem=480843&ctNode=4689&mp=044)
▽ドキュメンタリー作品賞は母と娘の複雑な思いを描いた「日常対話」が受賞ドキュメンタリー作品賞はホアン・ホイチェン(黄恵偵)監督の「日常対話」が獲得した。
ホアン監督とそのレズビアンである実の母親の関係にスポットを当てた作品。LGBTの人とその家族の思いを当事者としての視点で描き、「人の感情として最も難しく、最も辛い面を勇敢に写し出し、親子三代(母親、監督、監督の娘)の感情面の関係をあらわにした」として評価された。
(関連記事:
注目の台湾映画:レズビアンの母親と娘の複雑な思い描いた「日常対話」
http://japan.cna.com.tw/topic/column/201704220001.aspx)
ホアン監督によれば、同作に出演している母親は授賞式を欠席。昨年のゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)でノミネートされた際に母親は授賞式に来たものの、結局受賞はならず、がっかりして帰っていったため、今回は呼べなかったという。次回作は台湾原住民(先住民)の集落をテーマにした作品を撮影予定だという。審査員によれば、今回最も選考が難航したのがドキュメンタリー作品賞。日常対話に加え、「徐自強的練習題」、「黒熊森林」、「湾生画家-立石鐵臣」、「媽媽和宗憲」も議論に上り、票は分散していたという。▽その他の受賞者○主演女優賞:「川流之島」のアイビー・イン(尹馨)
アイビーは昨年の金鐘奨でも「川流之島」の同役でミニドラマ部門主演女優賞を受賞。失業の危機に面した高速道路料金所の係員を演じた。台北映画賞の受賞は2013年に続き2回目。前回、「権力過程」で助演女優賞を獲得したが、当時はノミネートされているのは主演女優賞だと思っており、予想外の賞にびっくりしていたという。今回は「(部門が)予想通りだった」と笑みを見せた。○助演女優賞:「順雲」のリウ・インシャン(劉引商)還暦の娘とその高齢の母親の二人暮らしの模様を描いた「順雲」で、わがままで偏屈な母親を演じたリウ。今年80歳になるベテラン女優ながらも、演劇で賞を取ったのは今回が初めてだという。スピーチでは「心臓が強くてよかった。そうじゃなければ倒れているところだった」とジョーク交じりに話し、感激に満ちた表情を浮かべていた。プレスルームでは、「(自分が演じた役について)こんな人は現実の世界にたくさんいる。『順雲』は素晴らしい作品。多くの人に見てほしい」とアピールした。
○助演男優賞:「強尼‧凱克」のホアン・ユエン(黄遠)台北で生きる3人の若者の姿を描き出した「強尼‧凱克」でホアンが演じたのは、干渉が激しい母親から逃れようとする自閉症の息子。「遊びに来るといった感覚であんまり何も考えていなかった」とスピーチし、声をつまらせながらも感謝を伝えた。
○新人賞:「強尼‧凱克」のリマ・ジダン(瑞瑪席丹)リマは「強尼‧凱克」で、交際相手との苦しい関係に悩まされながら、ペットのオウムとともに一人で暮らす女性に扮した。タレントとして活躍してきたリマにとって、今作は映画デビュー作。「今回が(映画祭)初参加だから、見識を深める目的で来た。評価されてうれしい」と冷静な面持ちでスピーチした。
○監督賞:短編「野潮」のルー・ボーシュン(呂柏勳)短編作品の監督賞受賞は、2015年のツァイ・ミンリャン(蔡明亮)に続き3人目。同作は中部・雲林の漁村を舞台とし、家庭的な要因で地域住民から疎外されている少年を主人公にした物語。
審査員を務めた香港の女優、カラ・ワイ(恵英紅)によると、「若手監督を応援する」という台北映画祭の精神に基づいて監督賞は選出したと説明。審査員団主席のティエン・チュアンチュアン(田壮壮)監督はルー監督について、若手としては一定のレベルにあり、才能が感じられたと評価した。▽授賞式に出席した人気スターたちグイ・ルンメイ(桂綸[金美])は主演男優賞のプレゼンターとして出席。主演作「徳布西森林」は長編フィクションとしてノミネートされており、ルンメイ自身も主演女優賞受賞の可能性があったが、受賞はならなかった。セレモニー前のフォトコールでは、「台北映画祭は実家みたいなもので、ずっと台北映画賞を取りたいと思っていた」と語っていたが、願いは届かず。
長編フィクションにノミネートされた「健忘村」に主演したスー・チー(舒淇)は真っ赤な衣装で登場。自身が主演女優賞の候補になっていることは知らなかったようで、司会者から話を振られると「ノミネートされているのを知っていたら来なかったのに」と無邪気にもらし、会場を笑わせた。台北映画賞はノミネート作品の出演者や制作スタッフが自動的に各部門の候補者になる仕組みで、各部門のノミネートリストは発表されない。クー・チェンドン(柯震東)は「マンダレーへの道」(再見瓦城)のキャストとして、ミディ・ジー(趙徳胤)監督、ヒロインのウー・クーシー(呉可熙)とともに出席。同作はメディア推薦賞を受賞した。ミディ・ジー監督は現在ミャンマーを舞台としたドキュメンタリーの製作を4本同時に進行中。長編フィクションについても来年には撮影を開始できる見通しを明かした。この日最も華やかだったのは「目撃者」のチーム。ティファニー・シュー(許[王韋]ネイ)、アリス・クー(柯佳[女燕])、キャッシュ・チュアン(荘凱[員力])と美男美女が顔をそろえた。(名切千絵)