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第51回電視金鐘奨(2) 台湾テレビ業界に対する受賞者たちの願い

2016/10/12 17:14
黄金に輝く金鐘奨のトロフィー
黄金に輝く金鐘奨のトロフィー

金鐘奨授賞式は、優れた番組や出演者、制作スタッフなどを表彰するだけでなく、受賞者にとっては自身の考えを世間に伝える絶好の機会でもある。各受賞者のスピーチからは、番組制作への熱意や台湾のテレビ業界への嘆き、願いなどもひしひしと伝わってきた。

◇客家テレビ、原住民族テレビが存在感 民族の誇りをアピール

今年は客家テレビが4部門、原住民族テレビが2部門を獲得。それぞれの受賞者が、「民族の文化を多くの人に知ってもらいたい」との思いをアピールしていたのが印象的だった。

小O事件簿の向日葵
小O事件簿の向日葵
子供少年番組賞を受賞した「小O事件簿」の司会者、向日葵は、客家語での受賞スピーチを披露。その後中国語で「私が12年間努力してきたのは、母語の客家語を公の場で聞いてもらい、存在感を示すため」だと熱い思いを見せつけた。また、舞台裏では「客家の文化や言葉を多くの人に知ってほしい。今回客家語でスピーチしたのは、これまでで最も多くの人に聞いてもらえる機会だったから」と語り、客家への支持を訴えた。

教育文化番組司会者賞のアロ・カリティン・パチラル
教育文化番組司会者賞のアロ・カリティン・パチラル
先住民の歴史や観点を音楽を通じて紹介した番組「吹過島嶼的歌」で教育文化番組司会者賞を獲得したアミ族出身のアロ・カリティン・パチラル(阿洛・卡力亭・巴奇辣)は、「あなたがたの歌があったからこそ、先住民の歴史、台湾の原始の美しさを知ることが出来ました」と植民の歴史や抑圧を耐え抜いてきた先住民出身の全ての音楽人に感謝。総合番組賞に輝いた「跟著dapin去旅行」の莎韻韋浪プロデューサーは、「先住民は歌や踊り、独特の料理だけではない。なぜ先住民が自分の土地を愛し、自分たちのやり方で生活をしているのか。この番組を見てもらえれば、先住民の考え方を分かってもらえるはず」と語った。

◇台湾テレビ番組の課題

メーガン・ライ、バロン・チェン主演の「アニキに恋して」(台湾テレビ「アニキに恋して」公式サイト予告編より)
メーガン・ライ、バロン・チェン主演の「アニキに恋して」(台湾テレビ「アニキに恋して」公式サイト予告編より)
長編ドラマ主演男優賞を獲得したクリス・ウーは「若い役者にはアイドルドラマだけでなく、さらに多くの題材が必要。制作会社は脚本家の専門性を信用して、より幅広い題材を開発してほしい。その場に足踏みしていてはいけない」と言及。先にも紹介したように、ツァオ・ルイユエン監督もドラマ作品の多様化を訴えていた。

植劇場「戀愛沙塵暴」劇中写真(好風光提供)。平凡な5人家族を中心に、5人それぞれの悩み、愛情、家族愛などを写実的に描いた作品。日本人の北村豊晴監督がメガホンを取った。
植劇場「戀愛沙塵暴」劇中写真(好風光提供)。平凡な5人家族を中心に、5人それぞれの悩み、愛情、家族愛などを写実的に描いた作品。日本人の北村豊晴監督がメガホンを取った。
これらの発言からは、台湾ドラマ界における、恋愛や青春の物語を描いたアイドルドラマ一辺倒の傾向への危機意識が垣間見られる。実際には、「一把青」(公共テレビ)や作品賞にノミネートされた「落日」(客家テレビ)のように、アイドルドラマではない作品も一部では放送されているものの、視聴率は振るわない。「一把青」の平均視聴率は1%未満だった。一方で、「アニキに恋して」(愛上哥們)「他看她的第2眼」など人気俳優を起用し、ロマンチックな恋愛模様を描いた、いわば “正統派”のアイドルドラマは平均視聴率2%超えとまずまずの好成績を記録している。この2作品はいずれも金鐘奨にはノミネートされていない。また、今年の審査対象にはなっていないが、通常のアイドルドラマとは一線を画したドラマシリーズ「植劇場」の第1弾「恋愛沙塵暴」の平均視聴率は0.67%にとどまった。視聴率から見れば、アイドルドラマが社会的テーマを扱った作品より人気なのは明白で、ある程度の数字が見込めそうなアイドルドラマを優先してしまうのはテレビ局・制作側としては当然なのかもしれない。裏を返すと、台湾ドラマの多様化のためには、幅広い題材の作品を求める視聴者層の裾野を広げていくことが必要だと言えるだろう。

バラエテイー番組賞を受賞した「星光大道」の老Kプロデューサー
バラエテイー番組賞を受賞した「星光大道」の老Kプロデューサー
また、バラエティー番組賞(総芸節目奨)を受賞したオーディション番組「星光大道」の老Kプロデューサーは各界からの支援の重要性に言及。同番組は台湾企業と提携し、テレビだけでなく、携帯、パソコンでも配信。中国大陸、マレーシア、シンガポールなどでも視聴可能にし、好成績を収めた。「台湾の番組制作資金は中国大陸よりも少ないと言われるが、台湾のために一味異なることをできるのは光栄」とし、「企業からの支援があれば台湾でも多様な番組が作れるということの証明」だとスピーチした。

司会を務めたジャッキー・ウー(中)。ジャッキーは出演番組「小明星大跟班」で、娘のサンディー・ウーとともにバラエテイー番組司会者賞を受賞した
司会を務めたジャッキー・ウー(中)。ジャッキーは出演番組「小明星大跟班」で、娘のサンディー・ウーとともにバラエテイー番組司会者賞を受賞した
式典の司会を務めたジャッキー・ウー(呉宗憲)は、トーク中、ユーモアを交えながら100以上もあるチャンネル数の多さやインターネット動画の人気拡大などに触れ、「優秀な工場(番組製作陣)はあるが、市場はどこにあるのか」と疑問を呈した。その上で、中国大陸の動画配信サービスとの提携の重要性に触れ、市場拡大の必要性を訴えた。

舞台裏の取材ルーム。受賞者はステージでの受賞スピーチを終えた後にこちらに移動し、取材に答えた。
舞台裏の取材ルーム。受賞者はステージでの受賞スピーチを終えた後にこちらに移動し、取材に答えた。
これらの発言から分かるように、台湾テレビ業界は多くの課題を抱えている。そして、俳優や制作スタッフは決して恵まれているとはいえない環境の中で、台湾のため、よりよい作品を作るために努力を続けているのが分かる。これらの人々の苦労が報われるよう、台湾のテレビ業界のさらなる発展を願いたい。

(名切千絵)

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