台湾南部の高雄市に、約50年間続いた日本統治時代の芸術作品にスポットを当てた美術館、「ミュージアム50」(台湾50美術館)がある。この美術館が他と違うのは、当時活躍した台湾の芸術家自身ではなく、彼らに影響を与えた日本人芸術家の作品に注目している点だ。
1988年から30年近い年月をかけて日本人芸術家の作品を収集してきた同館の郭鴻盛館長は、その過程で近代の台湾を代表する芸術家の多くが日本や日本人につながっていることに気が付いたという。 だが、台湾ではこれまで台湾人芸術家が脚光を浴びることはあっても、そのルーツである日本人にまで目を向ける機会は多くなかった。そのため、郭館長は同館のように「日台のつながり」をテーマにした常設展示を行っている美術館は、台湾ではほとんど例を見ないのではないかと語っている。 また、所蔵品の修復を担当している国立台湾師範大学の張元鳳副教授によれば、当時は日本の伝統文化と西洋の文化が融合した素晴らしい作品が数多く生み出された時代でもあるという。 同館は台湾の代表的な彫刻家の一人、黄土水が師事した高村光雲や関野聖雲のほか、台湾出身者として初めて帝国美術院展覧会(帝展)に入選した陳澄波を教えた石川欽一郎、田辺至などの作品数百点を所蔵。その芸術的価値によって台湾のみならず日本の美術関係者からも関心を集めている。 ミュージアム50は2014年11月にオープンしたばかりの新しい美術館だが、当時の優れた日本人芸術家たちの手による精緻な作品が集められている。高雄を訪れた際にはぜひとも足を運び、当時の日本と台湾のつながりに思いをはせて欲しい。写真提供=台湾50美術館(杉野浩司)