台湾のマスク実名制、成功の背景に官民一体の努力

【社会】 2020/03/04 15:40 文字サイズ: 字級縮小 字級放大
特約薬局でマスクを購入する女性

特約薬局でマスクを購入する女性

(台北中央社)新型コロナウイルスの感染拡大によるマスクの需給ひっ迫を受け、台湾の政府は2月6日から、医療用マスクの実名制購入を実施している。蘇貞昌行政院長(内閣)が実施を発表したのはその3日前の2月3日のことだった。台湾のマスク実名制には、日本や韓国などのメディアから称賛の声が寄せられている。短期間で実施に移し、スムーズな運用が実現できた背景には、政府や民間有志、中華郵政、薬局スタッフの協力といったハード面からソフト面、物流までにおける官民一体の努力がある。

▽政府、既存のシステムを基盤に実名制に対応

マスク実名制の重要な基盤となったのは、衛生福利部(保健省)中央健康保険署の医療情報クラウド共有システムだ。2013年の導入から徐々に機能を向上させ、データ管理の経験を蓄積してきた。「これがなかったら、マスク実名制をこれほど素早く実施することはできなかっただろう」と中央健康保険署の張齢芝さんは語る。

マスク実名制は、販売を国民健康保険(健保)の特約薬局や衛生所(保健所)に限定し、購入に国民健康保険証の提示を要求するという仕組み。1人あたりの枚数制限も設けた。保険証にはIDナンバーが記載されており、IDナンバーに紐付けてマスク購入歴をクラウド共有システムに記録することで、台湾全土の特約薬局で購入希望者の購入歴が確認できるようにした。これにより重複購入を防いでいる。

実名制導入に向けたシステム構築において困難だったのは、販売のピーク時にサーバーにかかる負荷に対応することだったと張さんは明かす。そのため、コンサートチケットのオンライン販売時の過負荷に似た状況を想定して準備を進めたという。安定した稼働を可能にするため、冷蔵庫ほどの大きさのサーバー20個を増設した。

▽ 「マスクマップ」の登場 民間有志が参加

政府がマスク実名制のインフラを構築したとするならば、購入者の利便性向上というソフト面においては、民間人の貢献が大きい。実名制導入に合わせ、マスクの販売店舗や在庫状況を確認できるサイトやアプリ、通称「マスクマップ」が数多く登場した。これらのサービスを開発したのは民間のITエンジニア有志らだ。

エンジニアの呉展イさんは実名制の実施が発表される前にすでにマスクマップの開発に乗り出していた。当時は政府が買い上げたマスクがコンビニエンスストアやドラッグストアなどで販売されており、呉さんのマップではコンビニの在庫に関する情報を提供していた。だが、当時は有志によるフィードバックを基に在庫数を把握していたため、正確性や即時性に課題があった。(イ=王へんに韋)

政府はマスク実名制の実施に伴い、販売薬局や在庫状況に関する情報のオープンデータ化を行い、誰でも利用できるようにした。マスクマップの開発者はこのデータを利用することで、より正確な情報を提供できるようになった。現在公開されているサービスは80を超える。

「持てる情報が多いほど、エピデミック(局所的流行)へのパニックは減る」と呉さん。「マスク実名制における政府と民間が一体となった努力は、将来の試みに使える手本だ」と胸を張る。

▽ 縁の下の力持ち 中華郵政と薬局スタッフが配送・販売に尽力

マスクの配送や販売においては、中華郵政と薬局スタッフが重要な役割を担っている。

マスクの配送を担うのは中華郵政だ。24カ所の工場で生産されるマスクを台湾全土の特約薬局計6500店舗余りに毎日届けている。「疾病対策に中華郵政が参加するのは初めてだ」と中華郵政の陳敬祥さんは語る。

マスク実名制開始に伴い、特約薬局ではマスク販売が毎日の業務の一つに加わった。台北市内で特約薬局を運営する蘇秀蓉さんは、毎日開店の2時間前に出勤し、マスクを個包装する作業を行っている。「仕事の負担は大きいけれど、それをする責任があると思う」と蘇さんは責任感をにじませた。

政府が実名制購入の基盤を整え、民間人がマスク購入を便利にする新たなサイトやアプリを開発、マスクを実際に市民の手に届けるために中華郵政や薬局スタッフが尽力する――。官民問わずそれに関わる人々が一つの目標に向けて力を合わせたことが、台湾のマスク実名制を成功に導いたと言えるだろう。

(李欣穎/編集:名切千絵)